行き違いの想いの果てに <夢の放浪者> 「―――!周助!!起きてよ」 「っうん?あれ…、越前?何で此処に居るの…?」 「自分の通ってる学校に居ちゃ悪いんすか?…はぁ、それに何で越前なわけ?いつもリョーマって呼ぶのに…」 あぁそうか…。これは夢なんだ。一番楽しかった中学時代の夢なんだ…。 「あぁ…ゴメンね、リョーマ。ちょっと寝惚けちゃったみたい…」 「ふーん…。どうでもいいけど、もう部活が始まるっすよ?部長来てるし…」 「そっか、じゃ行こうかな…。あれ?リョーマも着替えてないの??」 「周助が俺の膝に頭を乗せてるから動けなかったの!…もう、記憶失くしたの?」 「え?あ、ゴメンゴメン…。お昼一緒に食べて、その後サボったんだよね?」 「そうっす。一人で幸せそうに寝ちゃうんだから…」 「フフ、気持ちよくってねv」 これは…僕が君を振ってしまう前の夢だね。時が戻るなら、この瞬間にモドリタイ…。 「ね、周助は俺の事好き?」 「もちろん好きだよ。…不安?」 「んーん、ちょっと訊いてみただけv俺、周助の事信じてるし…」 「……ありがとう」 こんなに信じてくれてたのに…なんて馬鹿な事をしてしまったんだろぅ…。 「うぅ…ぐ…ヒクッ…」 「?!周助?泣いてるの…?」 「ん?あれ、なんだろうね…コレ。気にしないで、目にゴミが入っただけだから…」 「馬鹿なこと言わないでよ!…何があったの?」 「何にもないよ。…ただ…」 「ただ?」 「いつまでリョーマと居られるかなぁって思って…」 「周助が望めば…俺は一生居るし、消えろって言われれば死ぬ事だって怖くない」 そこまで僕のことを想ってくれてるの…? だから、別れてって言った時に何も言わないで去って行ったんだね。 「リョーマ…。それはね、僕も同じだから」 「じゃあ、俺達はずーと一緒に居られるんだねv」 そう、ここまでは僕の記憶の中…。 でも、この先の結果を変えてしまったら、運命の歯車はどう狂うのだろうか? 「ねぇリョーマ、僕、さ――」 そう、ここで僕は君を振ってしまうんだ…。君の気持ちに応えるのが怖かったから…。 「君の事が…」 「ダメ!!その先を言ったら…」 「大好きだよ…?」 プツンッ 脳裏に何かが過ぎった。薄れてた過去。――此処で君を泣かせてしまった悲しい記憶―― …途端、何故だか後ろから引っ張られる…!リョーマと僕が離されていく!! 「――しゅ、すけ…俺も…大好きだ、から――」 離れる間際に君が手渡した一つのボール。 それは…ウィンブルドン優勝記念、と書かれたボールだった。 「――だ、じに…して、よね――」 「兄貴?!大丈夫かよ!おいっ!!」 「ん…?ユータ??」 「まったく…驚かせるなよ!久しぶりに帰ってみたら兄貴は床に倒れて意識失ってるし…」 「い、しき…?僕、寝てただけだけど…」 「何言ってんだよ?!呼吸してなくって真っ青だったぞ?救急車呼ぼうかと思ったってのに…」 呑気なもんだぜ!と裕太が言葉を濁らす。 「ん?兄貴なに手に持ってんだよ…。ウィンブルドン優勝記念?どうしたんだ、これ?あ…日付、今年だ…」 今年の優勝者は…『越前 リョーマ』 「どうしたんだろ?夢を、見た気がするんだけど…思い出せない」 「ゆっくり休めって…。本当に死に掛けてたんだから。このボール、どうする?」 「僕が、持っとくよ。何だかとっても大事なものに思えるんだよね…」 「そっか、ならいいけどよ…。あれ?そこにあるサボテンって、今までどうしても花が咲かなかったやつじゃねぇの?」 裕太が指差した先は・・・『リョーマ』 まだ蕾だが、綺麗な色の花をつけていた。 「本当だ…。リョーマに花がついてる…。綺麗…」 「リョーマ?…まだ忘れてなかったのか、兄貴…」 「うん、でもね…。なんだかリョーマに逢えたような気がするよ…」 「?そっか、まぁボールといいサボテンといい、不思議な事があるもんだなぁ…」 「そうだね…。こういう事を、人は奇跡と呼ぶのかもね」 僕の呼吸が何故止まっていたのかは分からないけど…、君は僕に奇跡を見せてくれた。 遥か遠い大陸から、想いを風に乗せて…奇跡を運んだ。 僕の机に飾られたボールと、テーブルの上のサボテン。 全ての物に君を感じて…僕は安らぐ。 過去は手に入らなかったけど、大切なものが僕の心に生き続ける。 ――最後に見た…君の涙と微笑が―― |